夏宵 涼し

        *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
         789女子高生設定をお借りしました。
 


 着物などへの染めものの“藍”は、特に日本人の肌の色によく映えて似合う色なんだそうで。そのせいでしょうか“ジャパンブルー”とも呼ばれておりますし…なんて、天下のNHKの、浴衣や着物の特集をしていた番組の中でもっともらしくも紹介されていて。

 「でもね、藍って“インディゴ”のことでしょう?」

 欧米では“インド藍”って呼ばれてるくらいで、日本が鎖国してた間にも既にあった代物だそうだし。確かエジプトのクレオパトラがいたくらい古い時代にもう、目の周りのお化粧に使われてたって、どっかで聞いたことがあるんですよねと。履き慣れない下駄の足元を気にしいしい、それでも達者に述べたお説が、

 「どっちも虫とか蛇とかを寄せないからって使われたんだそうで。
  だったら日本独自というか、固有のもんでもないのにねって言ったら、
  ゴロさんから、ヘイさんは物知りだのぅって褒められちゃいましてvv」

 優しかったお声を思い出してもしたものか。頬を染め、肩をすくめての“えへへぇ”というお道化た笑みを零しつつの、そんな帰着をみたのへと、

 「…それは惚気か? 林田。」

 衿の直線が斜め同士に交差する胸元辺りから、首元とお顔へと向けてのパタパタと。涼風を送りたいのか、それとも蚊を追い払っているものか。淡青の絹地へ朝顔の大輪が刷られた扇子を使っていた久蔵が、微妙な間をおいてからそんな言いようを口にしたのは。どさくさ紛れに何を言うとばかり、微妙に呆れたからだろか。都内でもお嬢様学校として有名な、某女学園が中心になって開けたような土地柄なせいか。駅前の商店街であれ、開放的なこのシーズンに入ってもさほどけばけばしい様相にはならないものの。それでも納涼という雰囲気を醸すよな、風鈴や笹や柳を用いての、涼しげな装飾なりディスプレイなりがほどこされてあった、JRのステーションビルからは。浴衣姿の老若男女が、三々五々 降り立っては吐き出されており。その大半は、少し先の川岸に設けられた、見物用の桟敷や土手の少しほどなだらかな辺りを目指している。どちらかといや住宅地なので、宵のこんな時間帯には滅多になかろう人出の量だが、それでも毎年恒例の代物。その昔はやんごとなき階層の方々が、夏場の遊興に船遊びをしたらしき、通称“大川”を愛でての花火大会が催されるからで。川向こうにあるグラウンドから打ち上げられる花火を観にと、近在の人々が誘い合わせてやって来ているのが この人の流れなのであり。そんな中に一緒くたになっての埋没しかかっていた3人娘もまた、目的は彼らと同じであったれど、

 「今日はこっちから回ってくださいな。」

 平八の先導にしたがって、途中で大きく道を逸れたので。それは華やかで人目を引く彼女らに見とれてしまっていた何人か、うっかりと関係のない道へまで同行しかかり、はっとして慌てて雑踏へと戻る様はコントのようでちょっぴり愉快。
(苦笑) そう、普通一般の皆様は、町内会がそこでと指定して空間を用意した見物用の広場や河原か、若しくは…穴場にあたろう鉄橋の高架下だの、程よい位置のマンション下に店舗を構えておいでの喫茶店だのへ向かっておいでなのだが。こちらのお嬢さんたちには、彼女ら専用の特等席がお待ちかね。

 『無事に梅雨明けしたので、
  大川の花火、今宵予定通りに行われるそうですよvv』

 ですので、夕刻 八百萬屋へ集合ですよと、今朝方の一番に平八から届けられたメールへ、七郎次と久蔵がわあと歓喜の声を上げ、すぐさま“承知”と返信したのは言うまでもない。七月半ばまでの試験休み中も、仲良くお顔を合わせていた彼女らだったものの、先週末の金曜日以降、終業式後の3連休は いきなりそれぞれに予定があってのメールさえ適わずという極端さ。別段、毎日の四六時中、べったり一緒に居なきゃあ友達じゃないとか、メールも3分以内にすぐ返さなきゃ以下同文とかいうよな、底の浅いお付き合いじゃあないけれど。(そして…そういう具合に泰然としているところがまた、年齢相応じゃあないほど威風堂々とした態度に見えてか、部活という繋がりもないよな不特定多数の下級生たちから“お姉様”なんて呼ばれて慕われちゃったりもしている要因だったりするのだが。)

  それでもやっぱり、
  彼女らが相手じゃなけりゃあ、話せないことが 一杯あるので

 互いをよくよく知っていて、気の置けない同士だから。と言っても、ホクロの数とか寝相とか、初恋の相手、小さいころのトラウマなどなど、全部全部知ってる訳でもないけれど。それでもね…いいところも悪いところも、実の親御さんよりいっぱい知ってる。頑固者だっての知ってるから、あんまり強引に干渉しないとか。甘え下手は相変わらずだから、こっちからぐいぐい訊いてやらにゃあと構えて差し上げる、とか。現今の“生”でのお付き合いは2、3年てとこだけど、そうなる前から知ってることがたんとあって。それを拾った前世の“生”でのお付き合いだって、ほんの数カ月って代物ではあったけど。お互いがいい年していた歴戦の侍だったからネ。人への踏み込みようも心得ていたし、人生経験という蓄積あっての絶妙な察しや洞察も使えてのこと、相手の人柄や人性、ほぼ正確に把握しており。

 『シチさんはあの頃も 勘兵衛殿一筋、勘兵衛殿第一でしたが、
  そこんところは同んなじですねぇ。』
 『そんなことないですよぉ。』
 『……。(頷、頷)』
 『ほら、久蔵殿も。時々はアタシも我を張ってましたって。』
 『それにしたって、
  勘兵衛殿へという意識をしてのものだったんじゃあ?』
 『う…。』
 『〜〜〜。』
 『判りました判りました。
  別に苛めてるワケじゃないですよ、久蔵殿。』

 言いたいことを言い合えて、久蔵に限らずのこと、言葉が足らずとも判ってもらえて…と。ささやかだけれど 心にほんわりと暖かい、そんな優しい記憶や絆があったこと、覚えていたのがしみじみと嬉しくて。まずはあり得ない“前世の記憶”がほどけたのは最近だったが、そうなった途端に恋しくなったお仲間たちに、再会出来た折は どれほど感激しただろか。

 『……にしても、
  三人揃って女子だってのは、どういう気の合いようなんでしょうかね。』

 寄ると触ると年相応にキャッキャとはしゃぎ、そのくせ、色恋沙汰だの風評だのには、どんな風当たりが襲おうと揺るがずにいるところを頼もしがられもするけれど。

 『ただ単に、焦んなくとも何とかなるってのを知ってるだけなんですのにね。』

 評判の小町よ、名物娘よと持て囃されても驕らず、されど…前世から持って来たものもちゃっかり生かしての、女子高生ライフを満喫中のお三方。それぞれに愛らしい浴衣姿の披露も兼ねての、今宵は花火見物ということで。平八が居候中の“八百萬屋”へと向かっており。ちょっぴりレトロな作りの 住居兼甘味処、そんな二階家の切妻屋根の上、そちらも味のある木造の物干し台に上がると、何の障害物もなく花火を眺められるとあって。休みに入る前からどころじゃない、昨年の花火が終わった瞬間から、きっちりと予約されてた特等席だ。カラコロ・カラシャリと下駄の歯 鳴らして、さっきまでいた通りとは打って変わっての、人通りの少ない小道を進む彼女らであり、

 「ヘイさんの浴衣、珍しい柄だよね。」
 「そうですか?」

 萌葱と緑の真ん中という浅いめの緑地に濃い色の柳の枝葉がそよぎ、足元やたもとの裾、胸元にも小さめのが少しほど、白抜きのアユが涼しげに泳ぐところは確かに珍しい柄であり。藍青の帯を前面の真ん中で折り返し、裏側の浅朽葉を斜めに覗かせる小粋な結びようがまたしゃれている。袖の中へと手を引っ込めて、左右に軽く引っ張ってのその場でくるんと回って見せて、身頃や背中の帯の結びようやらを見せながら、

 「ゴロさんに着せてもらいましたvv」

 ほくほくと微笑んで報告する平八へ、

 「あ、やっぱり。相変わらず器用だよねぇ。」
 「……。(頷、頷)」

 でも浴衣はアメリカのおじいさまが送ってくれたんですよ? …………。アメリカで買ったんだろかって、久蔵殿が。さぁて。でもアロハの元も日本人移民が持ってった着物で作ったって話ですし。ヘイさんの実家があるのはハワイじゃないでしょが、確かシリコンバレーのご近所じゃなかったか…と。いきなりお話が星条旗を地元とするよなそれへとなったのは。赤毛の林田平八さん、実は米の国と書くアメリカ生まれだったりするからで。

 「…その割に英語の試験はさんざんですが。」
 「あ、先に言われた。」
 「………。」
 「え? 久蔵殿も前々から不思議に思ってたって?」

 そういや、英語の点は久蔵の方が上だったりするものねと突っ込まれ、だってそれはしょうがないですよぉと、言い訳を紡ぐときに付き物な、上目遣いになった猫目娘さん。

「初めて読んだお堅い文章の中の、助詞はどれだか答えろとか訊かれても、例文に出て来た慣用句を使って何か文を作れとかいきなり言われても…人には向き不向きってもんがありますもの。日本に長くいるお二人だって、現代国語の点数はあんまり…。」

 「きゃあ、言わないで。」
 「〜〜〜〜っ。////////」

 テストの話は無しよ無しと、少々大仰に耳を塞いでみせた白百合さんの、しなやかな痩躯へ まといし浴衣はというと。濃紺の地に、淡い緋色のフヨウアオイの花と濃色の葉とが配置され。葉陰のところどこには、蛍のつもりか淡く抜かれた光源が幾つか。鼠銀の半帯を文庫に結んで、大人しめのシックにまとめているが、それを着ているお人が金髪碧眼という、視野に入ればハッとくるほど特徴の立った風貌なので、さっきの人込みの中でも これで十分 目立っておいでだったほど。ちょっぴり大人っぽく抜き衿にしいたうなじの白さも艶めいており、

 「勘兵衛さんがいたら鼻血出してますね。」
 「…………。(頷、頷、頷)」

 と、平八と久蔵がこそり囁き合ったほど。そういう久蔵の装いはといえば、渋めの濃緋、蘇芳の地に、白抜きや深紅、濃紺などなどの、流線で表された弓型の模様が下へゆくほど密に散らされていて。その構図が…まるで ツバメを思わす鳥が鋭くも舞い飛んでいるように見える意匠なのが、まとった人物が人物なだけに意味深だ。こちらさんも髮が軽やかな金色なその上、お顔や首条、袖から覗く手や手首などなどが度を超した色白なので。宵の空や夜陰に浮き上がるよな、明るい色合いで派手に作るとくどくなるが、さりとて浴衣の場合は…辺りの薄暗さに輪郭が曖昧となる濃色でまとめてしまうと、その拮抗が妙なことにもなりかねず。なのでか、細腰にきゅっと絞められた藍絽の帯には、背中の片貝結びの上へ、銀糸を織り込んだオーガンジーのへこ帯で作ったもう一つ、蝶々が重なっているよな変わった仕様がほどこされており。

 「何だか可愛い着付けだよね。」
 「これってお母様が?」

 一流ホテルの支配人をなさっておいでの、ばりばりのキャリアウーマンだから。縁がないかとも思ったが。和服は日本人の正装だし、インパクトも大きいからレセプションなぞで印象づけるには有利だということで、和装に身を固める機会も少なかないのかも? でも、この着付けは何だか今時風じゃあなかろうか。お友達二人からの問いかけへの反応、ちょうど街灯が灯していた真下という光の輪の中、立ち止まってのこちらを向いた紅バラさんは、

 「〜〜〜〜〜〜。/////////」

 日頃の鉄面皮と比較するまでもなく、気のせいじゃあなかろうほどくっきりと、その白い頬を赤く染めて見せ。紅の双眸をくるくると忙しく揺らめかせてから、

 「…………………………ひょ、ご、が。////////」

 「あら。」「まあまあvv」

 含羞み顔も可憐な、お友達の見せた態度の愛らしさへと。きゃあという黄色いお声を上げてから、

「器用なお人がここにも一人ってことでしょかね。」
「といいますか、
 それが女性であれ誰であれ、
 久蔵殿へは あんまり軽々しく触ってほしくないのかも。」
「しかも、きれいになぁれっていう方面への話ですもの、
 下手ないじりようはされたくないってポリシーがお在りなのかもですよねvv」

 と。好き勝手を並べる親友二人の言いようへ、ますます真っ赤になってしまう紅胡蝶殿であり。

 「ああ、ほらほら。唇かまない。」
 「そうですよ? 夏も夏で荒れやすいんですからね。」

 現世でもおっ母様気質の強い七郎次が、紅バラさんの細っこい肩へと手を置いてやって、うなだれていた細おもてを仰向かせ。

「久蔵殿は特に、熱いものが持てなかったり、
 子供用の虫よけスプレーでさえ かぶれそうになったりするほど、
 肌が人一倍繊細でおいでなんだから。」
「そうそう。いつだって油断なく気をつけなくっちゃね。」

 ひなげしさんがメッと軽く目許を眇めつつ、その手へ提げていた、底が籐製の巾着袋からUVケアタイプのリップを取り出して。元剣豪殿の小さな顎を掬いあげると、ほれと手早く口許へ塗ってくれ。

 「さぁさ、もたもたしていたら始まってしまいます。」
 「そうだった。花火花火♪」

 顎や頬に触れた、平八の小さくてさらりと柔らかな手は優しかったし。肩を後押しする七郎次のしなやかな手の力加減も、要領を得ていての軽やかなそれで、たいそう心地よく。生まれてこの方、時々道に迷ったように立ち尽くしてばかりいた自分が、年頃の女子らしく笑ったり怒ったりが出来るようになったのは、やはり彼女らのおかげだよなとの心覚えも新しく。うんと頷き、歩き出した紅バラさん。その、軽やかな髮を飾ってたヘアクリップの先では、細い金鎖で下がった珊瑚玉のチャームがちかりと揺れて。夏至の晩に踊る妖精さんたちよろしく、撥ねるように駆け出した三人の影が、街灯の数だけ輪になって舞った、初夏の宵だった。











    ◇ おまけ



 「何でも“流出頭脳”の秘かに第一号とか言われている御仁だったそうでな。」

 素材工学の権威とか、そっちの畑の第一人者とか言われてもいたお人で。バイオだ遺伝子だがブームになった時期に、そのどさくさに紛れて海外に引っこ抜かれたそのまんま、米国で伸び伸びといろんな研究に没頭していた好々爺。助手兼、身の回りのケアを一手に引き受けていた奥方も、当時の女性にしちゃあ なかなかにおおらかな気性のお人で、そんな二人の間に生まれた子らの内、次男が特に、研究好きな血を強く引いたようで。今はアイビーだかUCLAだか、有名な大学で教鞭執ってもいる工学博士というのが……あの平八の父上だとか。

 「そんなお人とは知らぬまま、
  北米で気ままな徒歩の旅をしておった某
(それがし)が、
  路銀が尽きたのでと雑用をさせてもらった屋敷にいたのがヘイさんで。」

 カットフルーツを華やかに盛った、丸々としたブランデーグラスへ。その隙間を満たすパステルカラーの小じゃれた飲み物を静かにそそいで“はいお待ち”と、カウンター越しに差し出した、片山五郎兵衛のそんな言いように、

 「……何だか最も意外な出会いに聞こえるのは気のせいだろか。」

 風貌やら性格が和風…かというとそうでもないながら、でもでも、一番“日本”という土壌でこそ知り合い直しそうな二人だってのにと。露をまとったグラスを手に、う〜んと難しいお顔で唸った長髪のお医者せんせいへ、

 「儂も思ったさ。」

 それこそ、そこまで合致するのも妙な話のはずだのに、農業関係ではなかったのだなと、つい思うてしまったさねと。あの平八が前世では米好き工兵さんだったことを思い出したか、懐かしそうに目許細めて苦笑した、背中まで蓬髪伸ばした壮年の警部補殿。それが仕事着であるかっちりとしたスーツの上着を脱いで、隣りの止まり木に引っかけてという、何ともラフな恰好でいるものの。重厚な筋骨はいまだに健在で、しょぼくれてなんか見えない存在感は、店の中のほとんどの女性客らが注目して来てやまずという状態で。

 “だというに、ちっとも気づかぬ朴念仁でもおいでなところも変わりなく。”

 しかもしかも。そんな彼こそ、実は一番に神憑りな順番で、想い人との奇跡の再会を果たした身といえて。何せ、片やは華族の血を引く一族の深窓のご令嬢で、片やは階級こそ“警部補”なれど、いまだに現場で指揮執るペーペーの刑事と来て。刑事ドラマなんぞにあるような、七郎次の実家が何かしらの犯罪に巻き込まれたとかいう事態でも起きなけりゃあ、到底 接点なんてのはなかった筈が。平八や久蔵との縁が出来、そんな彼らの知己である五郎兵衛や兵庫と接すうち、侍だったころの記憶を取り戻した七郎次“お嬢様”だったので。勘兵衛と現世で出会い直したのはその後なだけに、よくもまあ、奇縁が上手いこと咬み合ったものよと、こちらの二人にしてみりゃあ…縁への引きのよさへと感心するしかないのだが。

 “だがまあ…ウチのお嬢も、
  名前を聞いただけで“あの島田か”と思い出してたほどではあるが。”

 これはやっぱり、この御仁の持つ何か、カリスマ性ともちょこっと違う、人を引き寄せる素養のようなものが生半可じゃあないということかと。こちらは兵庫殿が、しょっぱそうなお顔になった。あの女学園の高等部へと進学し、同じクラスになった初対面の少女。赤毛の彼女の、にっこり朗らかな笑顔に既視感を覚え、そこから前世の記憶がするするとほどけたらしき久蔵は、そうやって“再会”した平八や、気づかぬまんまではあったがずっと傍らにいた兵庫へと、自分の中で眠っていた記憶が少しずつ蘇るたび、訥々と…確かめるように話すようになったのだけれど。そんな中で、それだけは鮮明かつ克明に、弾けるように反応したのが、

  ――― 島田 という、実にありふれた苗字へ

 島田というだけでは よくある名前のはずが。五郎兵衛が何の気なしに紡いだその途端、島田勘兵衛というのではないか?と、何も言い足されぬうちからそこまでを洞察し。膝に置いてた白い手をぎゅうと握り込め…てから、だがその手を見下ろすと、今度はしおしおと細い肩を落っことさせたのが何とも判りやすくって。

 『………決着はついておらんのに。』

 今の自分は剣術へは素人も同然。多少の勘は残ってたって、竹刀も木刀も今の自分にはきっと重すぎて、振り回すなんて出来なかろう。それがこうまで口惜しいと思うほど、結局のところ、刀による手合わせでの雌雄を決めるという約定は果たされなかったことをまで、直接 逢い直す前に すっかりと思い出してしまった久蔵で。どんな執念だと兵庫が呆れたことは、だが。勘兵衛本人へは話していない。久蔵が言うなと口止めしていたのとそれから、ずっと傍らにいたこの自分を、久蔵がどうやって思い出したかという経緯に比すれば、あんまり癪だからというのもあったらしく。

 “そうと思うところは、だが、恋愛感情へは繋がってないのだろうか。”

 あくまでも保護者としての不快感か。だとすれば、久蔵殿の今世での恋路はやはり多難かも知れぬと。五郎兵衛殿がその分厚い胸の裡にて苦笑を零し、どこからか聞こえ出した花火の響きに、それぞれが想うは誰のことやら。こちらは大人たちの集いし、とあるカウンターバーの初夏の宵……。






    〜Fine〜  10.07.19.


  *女の子たちの輪にお邪魔する気はさらさらないけれど、
   あとでお嬢さんたちからの
   “お迎えに来て”という連絡が入るかもしれないのでと。
   それを考慮しての、ノンアルコールで待機の男衆たちだったり致します。
   そして…口には出さねど、
   きっと“ウチのお嬢さんが一番可愛いvv”とそれぞれで思ってるに違いない、
   こっちのお三人さんだったりして。(お、親ばか?・笑)

  *ちょこっと痛いお話を書いちゃったので、
   気分の切り替えにとぶっつけで手をつけましたが、
   いかがだったでしょうかしら?
   女の子たちの華やかな装いを書くのって、
   難しいけど楽しいですねvv
   はい? センスが今時へ追いついてない?
   それは言いっこなしでげすよぉvv
(苦笑)

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